第五十六回 運命の日まで


 江ノ島にあるレストランで夕食を取った後、セガワールド湘南(ちょっと大きめのゲームセンターで、江ノ島で健全に遊ぶ所というと、ここか江ノ島ボウルしかない)でちょっと遊んでから帰ることになった。
「どうだった?」
 絵里子ちゃんと彩実ちゃんがトイレに行ったのを見て、早乙女が、クイズゲームをやるために100円玉を積んでいる私に声を掛けてきた。
「なにが?」
「彩実ちゃんだよ」
「可愛いよ。全然両生類じゃないじゃん」
「俺もそう思うんだけど、本人がそう主張しているんだよ。性格もいい子だろ?」
「そうだな。礼儀正しいし、出しゃばらないし、よく気がつくし」
 私の場合、初対面かそれに近い女性と話をすると、聴いている音楽はプログレだし、読んでいる本は未確認生物関係かUFOだし、見ている映画はジャンク総集編だしで、大抵、噛み合わないのだが、彼女はこちらの話に対してけらけらとよく笑ってくれて、知らない話題でも「それってどういうものなんですか?」と興味を示してくれた。本当に会話をしているという感じなのだ。
「ま、後は適当に頑張ってくれ」
「なにをだよ」
 私は笑いながらそう答えて、改めて彩実ちゃんのことを考えてみた。
 礼儀正しい、出しゃばらない、よく気がつくというのも素晴らしいが、愚痴や人の悪口を口にしないのも好感が持てた。初対面同士が話をしていると共通の話題がないから、職場の変な人間の話になったりしやすいのだが、そういうのが一切なかった。愚痴にしても、聞かされると「あー、それは大変だね」としか言えずに困ってしまうのだが、あんなことに挑戦したい、こんなことを始めたいと彼女は常に前向きなのだ。
(顔は可愛いし、性格はいいし、本当にいい子だよなぁ)
 そう思いつつ、
(でも入れ込むのはやめよう。いつものパターンで終わる可能性の方が高い)
 と、冷静に分析した。ちなみにいつものパターンとは

「俺と付き合って」
「……」
「駄目かな?」

「あの……工藤さんのことは尊敬しているし、一緒にいて楽しいけど、やっぱりわたしにはお兄(以下略)」

 である。

 翌日。
 昼に起きてパソコンを起動し、ネットにつなげてNetscapeを立ち上げると、右下のメールのアイコンの横が「?(メールチェック中)」から「!(メールが届いています)」に変わった。
 誰かからの感想メールかなと思い、アイコンをクリックして受信すると、

 昨日は楽しかったです!

 というタイトルと“神崎 彩実”という差出人名が目に入った。

 工藤さんへ

 おはようございます(^-^) 昨日はありがとうございました。とっても楽しかったです! あんなに笑ったのは久しぶりでした。
 大仏さんの中に入れるというのは初めて知りました。今日、会社へ来て早速社長秘書さんに自慢してみたんですけど、彼女も驚いていました。だけど、じめじめしてちょっと怖かったかも・・・(>_<)

 工藤さんのホームページ、早速読みました! ZEROの法則を見て笑ってしまいました。あるある、こういうことっていう感じです。でも、女性も大変なんですよ。わかってほしいな~、この態度でわかってくれないかな~と思いながら男性と接していたりして。それと、エッセイの工藤さんが昔書いた小説の話、笑いをこらえるのが大変でした。ほんと、モニターを見ながら笑い出さないように必死だったんですよ。
 工藤さんの文章は絶対!!面白いと思います。必ず小説家になれます。なって下さい! 絶対応援します!!

 それではまた(^-^)/

 AYAMI

 P.S.

 工藤さんお薦めの本、早速、今日買いに行きます(^-^)

 顔が可愛いと、メールまで可愛く見えてくるから不思議なものである。どうやら会社のパソコンを使って書いているらしく、アドレスの末尾はco.jpになっていた。
 本文も嬉しかったが、追伸も嬉しかった。確かに、昨日、私は「この本が面白い」と彼女に薦めた。だいたいこういう場合、薦めた方の思い入れと薦められた方の思い入れのバランスがまったく一致せず、いつまで経っても薦められた方は本を買わないで、話を振られるのが面倒くさくなって段々疎遠になっていくものだが、彼女は今日買いに行くと書いてくれた。これで本当に買って、しかも読んでくれたらちょっとは期待していいだろうか。

 次の日。昨日同様に昼に起きて、パソコンを起動してネットにつなぎ、ブラウザを立ち上げるとやはりメールアイコンの隣の「?」が「!」に変わった。

 工藤さんへ

 工藤さんのお薦めの本、早速買ってきました(^-^) 今日から読み始めるつもりです。ほんとに楽しみです。

 それとごめんなさい。工藤さん、もう本を出しているんですね・・・。日記を読んでやっと気がつきました。失礼なことを言ってしまいました・・・。
 それで、実はお薦めの本と一緒に工藤さんの本も買いました(^-^) 工藤さんの本から先に読みます。今からわくわくしています。読み終わったら絶対感想メール書きます! それでは(^-^)/

 AYAMI

 次の日も、そのまた次の日も、彩実ちゃんと私のメール交換は続いた。彩実ちゃんは私がツチノコの話を書こうが、恐怖新聞の話を書こうが、もうとにかく何を書いても興味を示してくれるので、メール交換は本当に楽しいものだった。内容は彼女や私の家族のことや、彼女が以前付き合っていた人の話などどんどん深くなっていき、それでも話題は尽きずに毎日交換は続いた。

 そのうち、お互いの携帯番号を交換して、日時を決めて電話をするようになった。夜の8時に電話すると約束すると、呼び出し音が一回鳴ったかならないかという所ですぐに取ってくれるので、彼女が約束の時間に携帯の前にいることがわかって嬉しかった。
 今度、二人で遊びに行こうという私の提案に、彼女は即答で同意してくれた。

「嬉しい」

 彼女はそう言った。

 そして、世間的には単なる週末のある日、運命の瞬間が訪れた。

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